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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)5299号 判決 1953年9月11日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人川井正進の上告趣意第一点について

本件は、日本が未だ連合国の占領下に在った時代に行われたものであること、並びに本件物品が嘗て米国軍用品であったと推認され且つ起訴前既に米国官憲に引渡されて居ったものと認められること、占領下における我が国の統治権が連合国占領軍及びその要員並びにそれ等の財産に及ばないものとされていたことはいずれも所論のとおりである。しかしかかる制限は現に占領軍要員たる資格を保有する者又は現に占領軍の公用品乃至占領軍要員の自用品たる物品に対してのみ存在するのであって、既に何等かの理由によってかかる身分又は状態を離れた人及び物に対しては我が国の統治権の行使を妨げるものでないから、これ等に対し我が国の課税権、刑罰権の及ぶことは当然であるといわねばならない。従って原審がこの見解の上に立ち被告人に対する判示事実につき関税法を適用処断したことは正当である。そしてこの事はたとえ本件物品が密輸入の後において米国官憲に引渡されたとしても何等関税法の適用を妨げる理由とはならない。よって原判決が関税法の解釈を誤ったという前提に立ち違憲の主張をなす論旨はその前提を欠くものであって採るを得ない。

同第二点乃至第三点について

被告人が本件薬品を輸入したという点につき直接の証拠がないことは所論のとおりである。しかしながら訴訟において、最後的に確定しなければならない事実は、必ずしも直接証拠のみによってこれを認定しなければならないものではなく、ある証拠によって先ず他の事実を認定し、その事実からの推理に依って、又はその事実と証拠との双方からの推理によって主要事実を認定することを妨げるものではない。(明治三五年(れ)第六〇六号同年五月五日大審院判決、同三六年(れ)第一一八四号同年六月一六日大審院判決、昭和二三年(れ)第七九九号同年一一月一六日第三小法廷判決参照)。そして原審の引用する第一審判決の挙示する各証拠を綜合すれば本件犯罪事実を認定することができるのであるから原判決には所論のような採証の違法があるとは認められない。従って所論違憲の主張はその前提を欠き採るを得ない。

同第四点について

所論は原判決が大審院判例に違反するというのであるが、原判決はむしろ引用の判例の趣旨に副うものでありその理由のないことは論旨第二、三点について説示したところによって明らかである。

弁護人大島正義の上告趣意第一点について

所論は訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点について

所論は原審で控訴趣意として主張判断がなかったところであるばかりでなく、単なる訴訟法違反の主張であって適法な上告理由とならない。

同第三点について

所論は量刑不当の主張であり刑訴四〇五条に当らない。

なお記録を精査しても本件に刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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